21 Lessons

COLUMN "next one more"

「21 Lessons」/ユヴァル・ノア・ハラリ 著 柴田裕之 訳(河出書房新社)

数年前に日本でもベストセラーになった気鋭の歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」。ホモ・サピエンスがなぜ万物の霊長としてこの地球で繁栄してきたのかをダイナミックに説いた歴史書として話題になりました。続く「ホモ・デウス」ではそうやって勝ち残ってきた我々ホモ・サピエンスはついに神の領域まで手に入れようとしているのか、を問うています。「サピエンス全史」が人類史を俯瞰した「過去」ならば「ホモ・デウス」では人類の「未来」を提示した作品と言えます。二作品とも歴史、科学、哲学、宗教など学際的で幅広い視点から人間世界を考察しています。

そして三冊目の著書となる本書「21 Lessons」は「現在」を21の視点から論じています。バイオテクノロジーと情報テクノロジー(IT)の長足の進歩と融合が自由と平等を脅かしつつある今日の世界にあって、人類はどうやってその課題を解決していくのか。私たちはナショナリズムや宗教や文化の違いを乗り越えて、あまりにも複雑になりすぎた世界の真実を捉えることができるのか、そして人類がこれから紡ぎだそうとしている新しい物語をどう生きていけばいいのか。

「雇用」、「自由」、「平等」、「コミュニティ」、「文明」、「ナショナリズム」、「宗教」、「移民」、「テロ」、「戦争」、「神」、「正義」、「教育」、「意味」・・・。私たちが抱えている複雑に入り組んだ今日的で困難な課題を21の思考に分けて、圧倒的な情報量で微に入り細を穿ちながら解きほぐしていきます。前二作と同様軽妙なメタファーやユーモラスな語り口も健在。

著者はテクノロジーは私たちをフィジカルな感覚から遠ざけ、SNSをはじめとするオンラインスペースに心を奪われることで、オフラインのコミュニティが岐路に立たされていると警鐘を鳴らします。また、生態系の崩壊や気候変動については今すぐに手を打たなければならない、と悲観的なシナリオを示す一方、こうしたグローバルなレベルの問題に対して最も脅威なのがナショナリズムに基づく孤立主義だと看破します。『共通の敵は、共通のアイデンティティを作り上げるための最善の触媒であり、人類には今、そのような敵が少なくとも三つある。核戦争と気候変動と技術的破壊だ。これらの共通の脅威があるにもかかわらず、人間が自国への忠誠心を他の全てに優先させることを選んだら、結果は1914年や1939年のときよりもはるかに悪くなりかねない』と。私たちは21世紀を生き延びていくために今まさに待ったなしの課題を突きつけられているのかもしれません。

一方で、著者は「意味」の項でこう語りかけます。『遺伝子や詩のような、何か実体のあるものを残せないのなら、この世界をほんの少しだけでも良くできれば十分なのではないか?あなたが誰かを助け、その人がいずれ誰かを助け、それによって世界の全般的な向上に貢献し、思いやりの壮大な連鎖の、一つの小さな輪となることができる』と。著者ならではのポジティブなメッセージに救われます。楽観していてはいけない、でも悲観する必要もないのではないか。大切なことは今すぐに一人ひとりができる努力を始めることなのではないでしょうか。

(Kazu)

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